トップをねらえ2!第6話考察 ノノが託した特異点とはなんなのか
以下、トップをねらえ2!の重大なネタバレあり
2つの特異点
ノノリリが輝かせた特異点は、ノノがもらいますトップをねらえ2!におけるノノの最後の出番は時空検閲官の部屋にて締められます。
代わりに、お姉さまにはノノの特異点を捧げます! なぜならば────!
ノノから何か託されて目を覚ましたラルクの腕の中には、かつてノノが渡すことができなかった折り鶴が握られていました。
その後大人になったラルクは地球に滞在し、宇宙パイロットとはすっかり距離を置いて野鳥の保全活動に努めているようでした。
ヤンバルクイナ、という単語を聞いてすべてを察した方も多いでしょう。沖縄での夜、ラルクが明かりを消して星空を見上げるとともに明かりが照らされ、地球に帰ってきたノノリリを迎えるところで本作は終了します。
凄く完成された演出だと思います。4話以降のトップ2!は続編作品としてこれ以上にないくらい素晴らしいものです。
しかし、ここで一つ疑問。ラルクは一体何かを託されたのだろうか?
ふんわりとは全ての行動に繋がりがあることは分かります。けれど個人的にその結論が判然としていない……というところで思考が止まっていたのですがこの度突然気づきが降ってきたのでここに書き記しておきます。
確信した。トップをねらえ2!はとんでもない作品だ。
ノノリリの輝かせた特異点
まずはノノがもらったというノノリリの特異点から考えていこうと思います。そもそも、特異点とはなんでしょうか。
数式において法則から外れた特別な解、というと数学に馴染みのある人は分かりやすいと思いますが私はイマイチです。
この特異点という単語はトップ2!第6話においてノノとラルクの会話以前にも宇宙軍隊員のセリフに登場しています。
ありえない、ブラックホールが割れる……この宇宙では許されないことだ。このままでは特異点が剥き出しになる!初めて聞いた時は「なんか難しいこと言ってんな~」としか思いませんでしたが、これはかなり圧縮されたSF言語となっています。
ブラックホールというのは途方もない密度を持った惑星が光も押しつぶすほどの重力を発する現象。これが起きる条件は惑星の質量と半径を用いて、シュヴァルツシルト解なんていう数式で表せるそうです。
で。この数式にも特異点が存在しています。それは惑星の半径が0の時です。
要するに宇宙軍隊員の言う特異点とはブラックホールの中心ということです。
本来ならばこの特異点は常にどうやっても観測できない(まるで世界の誰かによって隠されているようであるため時空検閲官説などという話がある)のですが、ノノはブラックホールを見事に割ってしまったがために本来は外に出てこない特異点が剥き出しになってしまったというわけです。
何言ってるか分からないと思いますが、まぁ詳しくは調べてください。
つまり物理的にありえない空間が露わになってしまったわけです。
特異点が現れ、物理法則が崩壊する源が宇宙に生まれてしまった以上宇宙はどんどん姿を変えてしまう。そういうことを宇宙軍たちは危惧していたのです。
はてさて、ここでノノが割ったブラックホールについて第5話にて語られていたことを振り返ってみましょう。
このブラックホールは本来雷王星宙域に存在していたブラックホールエグゼリオ。宇宙怪獣の巣と言われていましたが、その実態は中から飛び出ようとする変動重力源を閉じ込めておくための宇宙怪獣たちの防衛線でした。エグゼリオ変動重力源はこのブラックホールから脱出するとともに、それを取り込んで人類に攻めかかってきたのが第6話になります。
ブラックホールの名称、そして変動重力源を閉じ込めていたことから察するに、ブラックホールエグゼリオとはトップ!第5話にてエクセリオンをもとに作り出されたブラックホール爆弾のことでしょう。
それは人類を救うためのノリコとカズミの激闘の跡であり、ノノリリが輝かせたもの。
そう、このブラックホールの特異点こそノノリリが輝かせた特異点なのです。
かつて人類のために二人の少女が戦った証、そして宇宙を崩壊させかねない原因をノノは一人で抱え込むことで再び人類を救い、孤独な時空検閲官の部屋に残ることになった。
トップ2!第6話はノノリリからノノへと宿命が受け継がれた話でもあるのです。
ノノが託した折り鶴
ノノは特異点を背負い込み一人で宇宙へ消えていきました。では残されたラルクには何が託されたのでしょうか?ラルクの手に握られた折り鶴ですが、これだけでも色々考えられると思います。
まず思い出すのは第5話の病室でラルクがノノへ折り鶴を渡してあげるシーン。
地球じゃ「元気でいてほしい」って願いを込めて贈るのこのときのチコからの話を受けて、ノノは改めて見舞いに持っていくために折り鶴を必死で練習します。その成果はというと”ぶきっちょ”であるラルクが作ったものよりもずっとひどく、ノノの不器用さがよく伝わります。
本当なら見舞いに来る奴が持ってくるんだ
改めて第6話でノノがラルクへ渡したのは、ラルクのこれからを願ってであるというのが一番シンプルな話でしょう。折り鶴がクシャクシャなのはノノの根性の成果でしょうか。
次に思い出すのがトップ!第6話のカズミが沖女の生徒から受け取った千羽鶴。
これも当然、上記のようにカズミが無事でいてくれることを願って送られたものでしょうが……ここで気になるのは千羽鶴は宇宙に平和をもたらしたノノリリが受け取ったものであるということ。
同じものを受け取りながら、時空に閉じ込められたカズミと友達が時空へ消えたラルクとは立ち位置が逆になっているのです。
だって、お姉さまとノノリリは、よく似ているトップ!は”普通の女の子”がもう誰とも会えなくなる孤独を描いた作品でした。ノノはまた同じことが起こらないようにラルクを守ってくれたんでしょう。この鶴は今度こそ”普通の女の子”を地球に帰すことができたという証明なのではないでしょうか。
ノノリリって人はですね、特別じゃない。普通の女の子なんです
折り鶴の意味については作外での回答もあります。
監督本人がインタビューでじきじきに答えを出しているのです。私が書いたことと被っている部分も多々あります。
ノノはラルクに自分の想いを残したいと思っていて、それが折り鶴として残ったという事です。折り鶴もトップレスの表現のひとつであって、トップレスっていうのは、情報を別の情報に書き換える力なんですね。作品を見る中だけでは気付けませんでしたが、紙を別のものに変えること自体がトップレスのメタファーであるということらしいです。
(中略)折り紙を作る行為もトップレス的と言ったように、トップレスは暗黒面も見え隠れする力であるけれど、全てまとめて否定すればいいわけではない。それは失ったとしても続いているでしょ、という事ですね。
トップ2!を巡った感想では、よくフラタニティが行ってきた戦いは無駄であったような記述が多く見受けられます。それは前回の記事で否定したところではあるのですが、そういった思いは作中のこのシーンでも表現されていたのではないかなと思います。
トップレスを巡って嫉妬や不和、戦いなどが生まれました。けれどやさしさだって生まれている。
ノノとラルクの出会い、チコと宇宙放射線病の彼の恋、カシオとラルクのような受け継いだ者同士の絆。そういったことはトップレスが無くなった後も残り続ける。あの折り鶴は否定することなんてないんだよ、という優しいメッセージなのです。
受け継がれたノノの特異点
ノノリリからノノへと特異点を引き継がれ、ノノからラルクへと折り鶴が送られる。残ったものたちへと次々と託されていく構図のように話を進めてきましたが……ノノの特異点とは本当に折り鶴のことなのでしょうか?折り鶴というのはノノがノノとして覚醒してから随分経ってから知ったもの。そしてそこに込められた思いは上記のような優しさ。ノノリリの特異点は使命めいているのに対し、折り鶴にはノノが背負っていたものが反映されているわけではないのです。
この二つが対比されているのはメタ的に見て、構図として違和感があります。
バスターマシンの胸に秘めるのは全ての動力源となる縮退炉。
ノノの胸からラルクが手にしたのはもっと根源的な、ノノを動かす思いそのものであるはずなのです。
トップ2!のラストシーンを紐解いていくと、私なりの解釈をすることができました。
まず根本的な疑問。
なぜラルクはノノリリが帰ってくることを知っていたのか?
トップ2!の人類たちが最初から1万2000年後に名も知らぬ英雄が帰ってくることを受け継いでいた? それならば作中でもっと早く「英雄=ノノリリ」という気付きがあってよいはずです。
ユングが自動的にオカエリナサイと表示される電光掲示板を用意していたのか? それならばあんな文字のミスは生まれないですし、知られてもいないのだから帰還直前になって地球で話題になったりもしないでしょう。
となると。ノノが去ってからノノリリの帰還が発覚したと考える方が自然でしょう。
誰がそれを気付いたのか。本人の口ぶりから察するにラルクではないはず。師匠だったりするんじゃないかと思っていますが、詳細は不明です。
ではそれを踏まえて。
トップ2!のラストシーンにて10年後のラルクが立っている地は沖縄。かつてノリコとカズミが育った沖女があった地です。しかしそれは1万2000年前の話です。
これはラルクが自分からノノリリについてよほど深く調べなければ知ることができない情報です。
もはや考古学の領域の話。そんなことを保全活動をする傍らで出来るようなことなのでしょうか。古代語を知る友人の手助けを得たのか、はたまた特別に師匠から教えられたりでもしたのか。いずれにせよ人のつながりを感じさせる話です。
しかしなぜそこまでして沖縄でノノリリを待っていたのでしょうか。
はっきり言って、ノノリリに会うだけなら沖縄で待つ必要はないのです。かつての英雄が太古の英雄と会うのが難しいとは思いません。ノノリリが大和撫子であることを知っているラルクは日本にさえ滞在していれば邂逅する機会など作れたはずなのです。
真っ先に会いたかっただけか、それとも野鳥保全の仕事が偶然ノノリリと引き合わせたのか。
私の考えとしてはラルクがノノリリに「おかえりなさい」を伝える使命をノノから引き継いだからではと思います。
そもそもノノはなぜ女の子の姿をしているのでしょうか。
食事を取り、お風呂に入って、わざわざ洗濯もするし注射を怖がるようなロボットは極めて非効率です。人型で戦うことが都合が良かったというなら7号としての形態があれば十分なのにノノにはわざわざ少女然とした姿が作られています。
あの子をノノリリに会わせてあげたかった。そう。ノノの姿は英雄の友達にピッタリなのです。誰とも一緒に歩んで生きていけなくなったノリコのために、待ってくれている友達が必要だったからノノは少女の姿をしている。
もしノノリリがあの子の言う通り”普通の女の子”なのだとすれば、やはり友人が必要だと思うのです。
……英雄とは、いつも孤独なのでしょう。
ノノは人類を守るバスターマシンであり、タカヤノリコの友達として作られたのです。
そしてそんな優しさを誰が与えてくれたのか? 私たちは知っているはずです。
帰ってきたら「おかえりなさい」と言ってあげるノノの使命、特異点とは。1万2000年後に帰ってくるノリコとカズミに「おかえりなさい」と伝えることなのです。
だからラルクは沖縄の地でノノリリを待たなければならなかった。
ラルクが待っていた夜というのはノノから受け継いだ特異点のことなのです。そしてそれを果たせたのはトップレスを通じて生まれた繋がりと無事を祈ってくれた友人のおかげなのではないかと、そう思うのです。
まとめ
以上のことに突然気づいたのは職場で仕事をしている最中でした。トップ2!を最後に見てから半年は経つ今、思いもよらないタイミングです。この作品に込められた優しさは底が知れないなと、何かを気付くたびに驚嘆するばかりです。
トップをねらえ2!という作品の魅力の全てを私は知ることができていませんし、世にも知られていないと思います。
せめて私が見つけたトップ2!の良さを誰かに気付いてほしい……という祈りを込めて記事を書き続けて三本目になりました。まだ何かあるだろうなという確信があります。また半年くらいしたら突然閃くかもしれませんね。
作品を知覚して「こうかもしれない」と思うこと自体がトップレス的な行為。感性がいつ失われるか分かりませんが、少しでも汲み取れたこの作品の良さと一生付き合っていければ良いなと思います。